LOG IN

ウエノくんが踊った

by Azusa Yamamoto

自給自足の暮らしにあこがれている。
就職活動になじめず、いつまでも現実を見ようとしなかった学生時代、よく「自給自足で暮らしていくからいいんだもん!」と、いま思えば“よく言えたなそんなセリフ”を吐いていた。仕事をするようになってからも、絶対的に信じていたのは「人と自然」だったように思う。
人だけでもいけない。自然だけでも。両方がバランスよくあること。お互いに仲よくあろうとすること。だから、この「人と自然」を行動している人に出会うと、目も心もくぎづけになってしまう。

長野市信州新町の信級(のぶしな)という集落に住むウエノくんも、そのひとり。
彼と出会ったのは、2014年のGW。ウエノくんというひとをどういう経緯で知ったか忘れてしまったけれど、ともかく友人のクルマに乗り込み信級に到着した。道中、淡い緑がかった美しい犀川(さいがわ)の川面が光り、とても気持ちのいいドライブだったことは覚えている。
その川沿いの道から断崖絶壁が見下ろすくねくね道へ入り、右に左にとカラダをゆらしていたかと思うと、山道が開け、そこが信級だった。人からは「長野市の限界集落」と聞かされてきた信級なんだけれど、赤いトタンの屋根の家やきれいに手入れされた庭が鮮やかでまぶしいほどで、見とれた。これが信級との出合い。

信級は、麻の栽培やおかいこ、農業、林業で栄えた地域で、そのなかで炭づくりも集落を支える重要な仕事だった。昔は、あちこちで炭焼き窯からの煙があがっていたんだそう。
ウエノくんの家で、そんな話を聞きながら、信級の炭焼きの技術をつかって生まれた「信級玄米珈琲」をいただいて、彼の双子の息子・イサナとカナタとめいっぱい遊んで帰ってきた。

***

それから、なぜなんだろう。信級との交流は途切れなかった。ウエノくんが東京に来るときは、一緒にお酒を飲んだし、長野駅からバスを使って、一人で信級を訪ねたこともあった。
ウエノくんに田んぼや空き家を案内してもらい、80代で現役、70代は若手! という集落のスーパーおじいちゃん・おばあちゃんたちを紹介してもらい、わたしはワクワクしていた。
旧信級小学校にやってきたとき、わたしの気持ちはさらに盛り上がった。廃校になってしばらく経ち、一部を公民館として使用しているシンボリックな木造校舎を見て叫んだ。

「ウエノくん! ここ活用しようよ! リノベーションのワークショップとかしてさ、フェスなんかやってさ! 人たくさん呼ぼうよ!」

ウエノくんは、ニコニコしてうなずいていた。


その後、東京でわたしは、共同で水をひいている水道がいのししにやられて大変だとか、神社のお祭りのために、ししまいの稽古をはじめたとかいう、ごくたまに信級から発信されるものをちらちらと眺めていたが、ある日、
「この度、信級を拠点に映画・音楽・落語……様々な企画を開催する『のぶしな座』をたち上げました!」
という情報がとびこんできた。

しかも、その第一弾にドキュメンタリー映画『風のたより』を上映するという。この映画をわたしは栃木県・益子町で観たばかりで、そして心ゆさぶられたばかりだった。田代陽子監督も来信する(信級に来る、的な)というし、これはなんのめぐり合わせか。行くしかないであろう!

旧信級小学校の公民館で開かれた上映会には、信級内外の人が50名以上集まった。大半は“スーパーおじいちゃん・おばあちゃん”たち。3時間あるこの映画、途中休憩をはさむにしろ、大丈夫か? なんていう心配は「無用である!」とばかりに、みなさん最後まで映画を観、かりそめとは無縁の感想を述べていた。
91歳の集落の最長老は、まっすぐに田代監督を見すえ、
「農業しかやってこなかった身ですが、このような素晴らしい会をもうけてくださり、監督、スタッフのみなさまに感謝申し上げます」とまっすぐに言った。

わたしは、この様子を目の当たりにし、一人恥じた。わたしの感想がじつにかりそめであったからだ。ウエノくんは、3年、いやそれ以上の月日(彼がこの地にやってきて8年になる)をかけて、やってきたことが分かってきた。
あのとき、旧信級小学校ではしゃいで口にしたわたしのかりそめのセリフを彼は覚えているか不明だ。けれど、あのとき安易に考えていたのは確かなこと。人が集まれば信級のためになると思っていた。
ウエノくんはその集まるべき「人」をしっかり見つめ続けていた。彼が3年前にニコニコうなずきながら見ていた景色は、きっとこの上映会そのものだったんだ。

上映会のあとの懇親会で、信級にあたらしくできた「かたつむり食堂」(これもたいへん大きな変化!)で、地元の人と外からやってきた人がおしゃべりしている。信級の歴史を語る人がいて、それを聴く人がいる。

「信級の潮目が変わった」と彼の炭焼きの師匠がつぶやいたと喜んでいたウエノくん。
打ち上げでウエノくんは信級に来て、はじめて踊った(なんと彼は舞踏家でもあるのです!)。
美しく乱舞するその手・足・指・胴・目・口・髪……ウエノくんの全部から信級の未来の潮目があふれでているみたいで、目が離せなかった。


Azusa Yamamoto
OTHER SNAPS