LOG IN

ともしび

by Azusa Yamamoto

目を覚ますと、闇だった。
ひどく寒い。
……!
はっとして、囲炉裏に目を向けた。

「……まだ火がある!」

闇のなかに手をのばし、薪を探した。
が、近くにはないようだ。寒い身体をふるいたたせて土間まで行く。

懐中電灯やスマホのライトは使わなかったので、防火用のアルミのバケツを派手に蹴とばした。しまった、家族が起きてしまう!
……幸い、誰も起きてくる気配はなく、ふたたび薪の捜索を続けた。手が薪と新聞紙を見つけた。

囲炉裏の熾に薪を一本くべると、あたりがさーっと明るくなった。
囲炉裏にかかる自在鉤(じざいかぎ)、煙で燻された柱、台所の竃にかかったおかま、土間に倒れた赤いバケツもあらわになった。
よかった。これで明日煮炊きをして、子どもたち、じいちゃんばあちゃん、お父さんに朝ごはんをスムーズに食べさせられる……。
またうとうとと眠った。

次に目を覚ましたときには、長男が竹筒に息を吹き込み、囲炉裏の消えかけた火をおこしていた。
しまった、“火守り”の役割、果たせなかった―—

***

ここは、長野県飯田市・大平宿。
わたしは、「民家の学校」の合宿に来ている。
かつて、木曽へとつなぐ街道として、多くの旅人を受け入れた宿場町・大平町。約270年前に開村し、当時の建物をいまに残す貴重な場所だ。

民家の学校の18期生(すでに18年も運営している!)の仲間たちは、それぞれに屋号がつく民家に“家族単位”で2泊し、そこで生活を共にする。
家族単位とは、ここではグループ8人のところにお父さん、お母さん、長男、次男、三男、長女、おじいちゃん、おばあちゃんというように、配役される。
そのなかで、わたしはお母さんを仰せつかった。「おかあさん」なんて呼ばれ、まんざらでもない。
こんなふうに、それぞれの個人史をまったく無視した役をもらう(声がかすれたヒゲのはえた長女や、笑顔がやさしい貫禄のある次男など)。

まずは、この即席の家族みんなでマイホームとなる「八丁屋」(我が家の屋号!)をそうじ。ホコリや謎の動物の置き土産などを掃き出して、雑巾をかける。

それから「さぁごはんにしましょう!」と、お父さん男の子たち(長女含む)は薪の調達・薪割りへ。お母さん、おじいさん・おばあさんは、配給された食材と調理器具のチェックをする。
夕七つ※、夕食づくりのスタートです。

※江戸の時間の数え方。およそ15時。


家族との話し合いの結果、“近代文明の力”の一切を使用しない、ということになった。
この選択のなかで、一番苦労をしたのが火。
火がおきなければ、何も始まらない。そして、わたしたちは驚くべきことに、棒を板にこすり合わせる「キリモミ式」と呼ばれる原始的な火おこしに挑んだ(というか、この合宿の恒例であるようだ)。

お父さんをはじめ、この合宿の2週間前に行われた「火おこしワークショップ」に参加したツワモノたちが、総出でとりかかった。
代わる代わる火切り棒を素早く回転させ、火切り板を摩擦。煙が出て火種ができたら、ふわふわしたもぐさに火を移して大きく腕を回す。すると、炎がぼっ! 着火!
……と言うは易し、生むは難し。手にはマメ、全員息があがってます。

何度も何度もやって、ついにお父さんが振り回したもぐさから火が! 次の瞬間、火のついたもぐさがお父さんの手を離れ、やんちゃな三男のもとへ⁉︎
「うわぁー!!!!」
と、だいの大人たちが大慌てで火の玉を追いかける。

お母さんは、お腹を抱えて大笑い。
笑いごとじゃないよ、と汗だくのお父さん子どもたち。
なにはともあれ、よかった。火がついた。

「さあ、晩ごはんにしましょう」

***

この八丁屋に一人で暮らすことは難しい。そうじ、薪割りと火おこし、調理、お風呂を沸かすなんかの家事をぜーんぶ一人で、は無理だ。火おこしを一人で、もいまのわたしにはできない。
ここに家族単位で暮らすことの意味、いとなみのこれまでが見えてきた。

民家の学校18期の校長・横川超先生が、「民家の原点」という講義のなかでこんなことを言っていた。

―—チンパンジーとヒトの住みかの違い、巣と民家の違いはなんでしょう?
その違いは「火」だと思います。考古学では、火を使用した痕跡があるかないかが、ヒトの痕跡の目印になっています。
われわれの先祖は、火を使うことで地上に降り立ち、火に集って共食することで、これまでとは位相の違う空間構造をつくりあげたのです。この太古の焚き火を、私は原初の「イへ」と呼びたいと思います。
「イへ」はまた、家族というユニットをつくりだした可能性がある。約4〜5名の家族形態は、一つの火を囲むことができる人数の限界かもしれません。
「イヘ」では火を絶やさない工夫が必要で、そこから建築化が始まった―—。

(民家の学校 講義『民家の原点』より)

***

家族と肩を寄せ合って暮らす。火が消えたら、隣の家にもらいに行く。コミュニケーションをとらなければ、暮らせなかった。

大平宿の灯火(ともしび)は、長い長い時を超えて、いとなみの原点を見せてくれた。


Azusa Yamamoto
OTHER SNAPS